【NARUTO】ごめんなさいから始まる物語【トリップ】
第1章 ごめんなさいから始まる物語
気づけば男は、病室の壁に軽く寄りかかり、何も言わずに本を読んでいた。
私はと言えば、この意味不明な状況になんとか自分なりの結論をつけようと、試行錯誤していた。
(犯罪の組織でもなさそうだし…、私はまだ夢を見ているのか?)
そうだ、きっと夢に違いない。
ズキズキと痛む全身が、これが夢でないことを痛いほど伝えてきたが、それはに気づかないふりをした。
「あの…」
「ん?」
声をかけると、男はこちらに視線を寄せた。
とは言っても、顔の大部分は隠されているため、表情は分からない。
「私は、いつからここに…?」
「あぁ、君がここに運び込まれたのは、ちょうど2週間前だよ。
火影様の顔岩の下に倒れていたところを、里の中忍が見つけた。」
「はぁ…」
ますますよく分からない。
しかし、自分がこの病院に2週間ほど世話になっていることは分かった。
せめて何か身分を証明できるものはないかと考え、その男に問うてみた。
「私が倒れていたということですけど、私の付近に何か荷物などはありませんでしたか…?」
「んー、君がいた付近はその日のうちに捜索されたはずだけど、
特に何もなかったみたいだよ。」
「そうですか…」
身分証もなくしてしまった。
もっとも、ここで身分証が意味を成すかどうかは別問題だが。
再び沈黙が流れる。
「あの」
「あのさ」
私と男の声が被る。
「…はい」
私は黙って、男が話し出すのを待った。
「君がどこから来たのかは知らないけど、悪意を持ってここにいる訳じゃないことは分かる。
君の命は助けられた。だから、しばらくの間は大人しくしていなさいね」
驚いた。
先ほど出会ったばかりの男に、自らの目的を悟られていたとは。
何者かは分からないが、どこか寂しげな、諦めたようなその視線は、他人事とは思えないほど私の心を汲んでいた。
私はそれだけで、この夢を信じていいような気がしていた。