第3章 ふたり、それぞれの午後
家のある通りが、見えてきた。
屋根の上には、薄くオレンジが残っていた。
けれど、影はもう深く、
街全体が夜に向かって、静かに息をひそめはじめていた。
は、ふうっと小さなため息をついて、
バッグの肩紐を軽く持ち直した。
「なんか、いっぱい歩いたね」
そう言って笑う顔が、
夕焼けの色にほんのり染まって見えた。
ランダルは、それにどう返事をしたらいいのかわからなかった。
楽しかった。
うれしかった。
でも、それをどう言葉にすればいいのか、
胸の中がごちゃごちゃになって、うまくまとまらなかった。
だから、ただ小さくうなずいた。
は、それで満足したように、
また前を向いて歩き出した。
ランダルも、その後ろに続く。
家まで、あと少し。
胸の奥が、またじんわりと熱くなる。
このまま、もう少しだけ、
こうしていられたらいいのに――
そんなことを、
思ってはいけないと知りながら、
心のどこかで、強く、願っていた。