第3章 ふたり、それぞれの午後

「私もね、甘いの結構好きだよ」



は、歩きながら続けた。



「特にね、果物のタルトとか。
甘すぎなくて、さっぱりしてるのが好き」



その声は、
ふだんと同じ、少し明るく、リズムのいい話し方だった。



ランダルは、隣で必死に歩幅を合わせながら、
うなずくことしかできなかった。



うまく言葉が出てこなかった。



何か返したいのに、
喉の奥に、いっぱいになった熱い空気がつかえてしまう。



（……どうしよう、なにか言わなきゃ）



でも、言葉は見つからない。



結局、ランダルは、
精一杯の小さな声でつぶやいた。



「……おいしそう」



それだけだった。



は、そんなランダルをちらりと見た。
そして、ふっと優しく笑った。



「今度、どっかで美味しいの見つけたら、教えてあげるね」



そんな何気ない言葉が、
ランダルの胸に、
痛いくらい、ずしんと響いた。



隣を歩くの足音。
風に揺れるワンピースのすそ。
茜色に染まった空。



全部が、あまりにきれいで、
すこし、怖かった。