第14章 12。
エルヴィンは、話を聞くことを放棄している俺に対し、冷静な態度で、静かに淡々とした口調で言葉を重ねていた。俺は「もう何も聞きたくない」と思っていても、耳に入ってくるエルヴィンの声と話に、無意識に耳を傾けていた。
そして、エルヴィンが話題に出した日のことを鮮明に思い出した。あの日のことは決して忘れることはできない。あの日は俺との「始まりの日」だった。
「失うことが当たり前」という非常に残酷な世界で、「失うことの恐怖心、そして、失わずに済んだことへの安心感」を改めて感じた日だった。
確かにエルヴィンが言うように、あの日、壁外調査が終わり帰還する際、が配置された班は生き残った班の中には存在せず、キースとエルヴィンは「全員死亡・回収できなかった遺体は行方不明として処理する」という判断を下した。
これ以上の被害を出さないために帰還すると言ったのだ。しかし、俺はその判断に納得がいかず、「もしかしたら…」と淡い希望を抱いて助けに行こうとした。
当然、エルヴィンは俺に「諦めろ」と言った。それでも俺は諦められなかった。そして、エルヴィンの制止を無理に振り切り、を探すために単独行動に出た。
あの時、なぜ自分が一兵士のためにあんな行動を起こしたのか分からなかった。まだ、と深い関わりがあったわけでもなく、大した感情を抱いていたわけでもなかった。
いや、実際は自覚していなかっただけかもしれない。に伝えたことはないが、が俺を意識する前に、俺の方が先にを意識していたのだ。そのため、きっと俺は無意識に体が動き、何も考えずに行動したのだろう。
そして、無我夢中でが配置されていた班を探した。道中、何体かの巨人に遭遇し、抱えている感情すべてをぶつけるように倒した。その場にいる巨人の餌食となった回収できなかった仲間たちの無残な亡骸を見て、の姿を脳裏に思い浮かべ、まるで一人で地獄を彷徨っているかのように感じていた。
実際にどれだけ探し回ったのか、時間は定かではなく、そんなことを気にしている余裕もなかった。しかし、無我夢中で探し回っているうちに、が配置された班の班長の亡骸を見つけ、幸運にもは自身が配置されていた班を見つけることができた。