第3章 第一章幕 天女編
忍術学園の一室は、静かで穏やかな午後の陽射しに包まれていた。畳敷きの部屋にはほのかな藺草の香りが漂い、外からは時折聞こえる鳥のさえずりが遠く響いている。蓮はその一室で、学園長の大川平次渦正と静かに向かい合って座っていた。二人の間には、陶器の湯呑みがひとつずつ置かれ、湯気がゆらゆらと立ち昇り、まるで淡い夢のように宙を漂っている。しかし蓮はその差し出されたお茶に手を触れることなく、ただじっと、長く伸びた前髪の隙間から学園長を見つめていた。彼女の青紫色の瞳は、深く静かな憂いを秘め、口元は固く引き結ばれている。一方、大川平次渦正は、何十年もこの忍術学園を見守り続けてきた重厚な風格を漂わせながら、湯呑みを静かに持ち上げ、ゆったりと茶を一口飲んだ。その姿は、幾多の困難や悲しみを乗り越えてきた者だけが持つ慈愛と落ち着きを醸し出している。
「して、この学園になんのご用で……?」
学園長の問いかけは穏やかながらも重々しく、部屋の空気をゆっくりと震わせた。蓮は問いかけに応えることなく、しばらく沈黙の中で静かな時間を過ごした。外の世界から隔絶されたような静かな部屋の中で、ようやく彼女は決意を固めたように懐から小さなメモ帳を取り出し、ためらいなくペンを走らせた。
『ここに、笹田真波という天女がいると聞きました。まず初めに……知らなかったとはいえ、私のせいで学園には大変なご迷惑をお掛けしました』
蓮はメモを学園長に見せると、深く頭を下げた。その姿には静かな悲壮感が漂い、彼女の心に重くのしかかる罪悪感が滲んでいた。大川平次渦正は眉を優しく下げ、慰めるようにまた湯呑みを口に運びながら静かに語りかける。
「お主のことは、忍術学園の六年生たちから聞いておる。何も知らなかったのであろう? ならば、お主のせいではない」
蓮はその言葉を聞きながらも、心の底では自分を許すことができずにいた。