第3章 第一章幕 天女編
蓮はその言葉を聞き、少し間を置いてから、再び淡々とペンを動かした。
『分かってるよ。大川さんの部屋で聞いたのなら話は早いね。もう、誰も傷つけないで済むよ』
蓮の言葉に即座に食満留三郎が鋭く返す。
「それで、お前が傷ついてもか?」
その問いは蓮の胸に鋭く突き刺さり、ペンを握る手が一瞬だけ止まった。しかし、蓮はすぐに迷いなく文字を書き続けた。
『私は別に傷ついたりしないよ』
それは蓮自身にとって、あまりにも自然な真実であった。しかし、その言葉の奥に秘められた本当の感情に気づいていたのだろう。
「もそ……あなたは、嘘をついてる。ほんとは、タソガレドキ城に帰りたいんだろ?」
中在家長次の静かで鋭い問いが、蓮の胸を深く震わせた。ペンを握る指が一瞬、微かに震える。蓮は、心の奥底にしまい込んでいた本当の願いを見抜かれたことに戸惑いながらも、覚悟を決めて書き記した。
『確かに、戻りたいけど。覚悟は決めてきたから』
その瞬間、風が優しく吹き抜け、蓮の長い前髪をかすかに揺らした。前髪の隙間から現れた彼女の瞳は澄み切っており、揺るぎない決意が宿っていた。その目を見た時、六人の忍術学園の生徒たちは、その固く静かな覚悟の前に何も言えず、ただじっと蓮を見つめ返すことしかできなかった。