第3章 第一章幕 天女編
蓮は、雑渡昆奈門に手を引かれながら歩いていた。足取りはどこか覚束ないが、それでも彼女は無言のまま進む。周囲の景色は変わらず、ただ静寂だけが支配していた。やがて、目の前にそびえ立つ城が見えてくる。見上げるほどに巨大なその城は、この世界の主が君臨しているかのような重圧を放っていた。まったく見覚えのないはずの城なのに、蓮は不思議と既視感を覚える。彼女は立ち止まり、無表情のままその威容を見つめた。その瞳に浮かんでいるのは驚きではなく、ただ静かな冷静さだけ。雑渡昆奈門は、蓮の手を引いたまま城内へと足を踏み入れる。後ろからは山本陣内、高坂陣内左衛門、諸泉尊奈門の三人が続いた。蓮は、まるで迷い込んだ子どものように足音すら控えめにして歩く。目を伏せ、ただ導かれるままに。やがて、一行は広間へと入る。蓮と雑渡昆奈門がその広間に足を踏み入れた瞬間、山本陣内、高坂陣内左衛門、諸泉尊奈門の三人が同時に足を止め、雑渡昆奈門の隣にいる蓮を見つめて揃ってため息をついた。
「組頭、犬猫を拾ってくるのとはわけが違いますよ」
一番若い諸泉尊奈門が、呆れたように口を開く。その声には、蓮を“拾われ者”として扱うような含みがあった。しかし、蓮にとってはそんな言葉など、取るに足らないものに過ぎない。雑渡昆奈門は、あたかも予想していたかのように軽く肩をすくめた。
「いいじゃないか。どうせ私が面倒を見るんだし」
そう言って、雑渡昆奈門は蓮へと視線を向け、その顔をじっと覗き込む。
「ねー?」
蓮は表情を変えず、静かに雑渡昆奈門を見返した。その瞳の奥には、声に出さずとも伝わる思索の跡が滲んでいる。