第3章 第一章幕 天女編
市場の喧騒は、相も変わらず人々の笑い声や商人の威勢の良い掛け声で満たされていた。空は茜空に澄み渡り、春の夕差しが柔らかく市場の隅々まで照らしている。しかし、その中心にありながら、蓮の心は静寂に包まれていた。胸にのしかかる重苦しい罪悪感に、蓮は小さく息を吐いた。六人から聞かされた事実は、思いがけず彼女を深い後悔の淵へと追いやっていた。知らぬこととはいえ、忍術学園に多くの迷惑をかけてしまったという現実は、もはや拭いきれぬものだった。蓮は目を伏せ、うつむいたまま黙していた。六人の視線は、そんな蓮の沈黙を静かに見つめている。
「……ごめんね」
その一言は、市場の賑やかな空気を切り裂くように、静かで、しかし確かに響いた。
「知らなかったとは言え、たくさん迷惑をかけた」
筆談ではない。彼女は初めて、自らの声で言葉を紡いだのだった。その声はまるで、どこか遠い異郷から吹き込んできた風のように清らかで玲瓏としていた。聞く者の胸を震わせ、耳に心地よく触れる不思議な響きを持っていた。六人は、その予想外の美しい声に一瞬息を飲み、言葉を失った。