第3章 第一章幕 天女編
静かな夜が訪れていた。窓から差し込む月の光は、薄絹のように透き通り、室内を青白く照らしている。蝋燭の炎が静かに揺れ動き、壁に淡い影を作り出していた。その薄暗がりの中で、黄昏甚兵衛は椅子に深く腰を掛け、まるで彫像のように動かず蓮を見つめていた。その視線は穏やかながらも鋭く、どこか測りがたい思惑を秘めている。蓮は微動だにせず、その場に静かに立っていた。まるで人形のように表情は変わらず、感情の一切をその神秘的な瞳の奥深くにしまい込んでいる。
「……お主が知らぬのであれば、それで良い」
長い沈黙の後、黄昏甚兵衛は重くゆっくりと息を吐き出した。静まり返った空気が、微かに揺らぐようだった。
「しかし、蓮よ」
彼は身を少し前に傾け、改めて蓮の瞳を覗き込む。その動作ひとつにも、彼の抱える複雑な感情が滲み出ていた。