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世渡りの旅人 【忍たま乱太郎】

第3章 第一章幕 天女編


彼もまた口を閉ざし、ただ蓮と共に静寂を享受しているようだった。やがて静かな足音が縁側へと近づいてきた。高坂陣内左衛門が姿を見せる。彼は足を止めると、穏やかな声音で短く告げた。

「蓮」

その声に、蓮はゆっくりと振り返った。

「殿がお前を呼んでいる」

言葉なく立ち上がった彼女を、山本陣内は表情を動かさずにただ黙って見送った。蓮が甚兵衛の部屋に入ると、そこには変わらぬ静かな空気が漂っていた。彼女は静かに座り込み、視線を落として待った。甚兵衛は、蝋燭の揺らめく光に照らされた蓮の静かな佇まいを、じっと見つめる。やがて重々しく口を開いた。

「……忍術学園の天女のことを、お前は知っているか」

問いかけられた蓮はわずかに瞬きをした。長い睫毛が月光に照らされて淡い影を落とす。その問いに無言のまま首を傾げると、青紫色の瞳がほんの少しだけ月光を受けて揺れた。長い前髪がさらりと頬を撫で、横に流れてゆく。

「笹田真波」

甚兵衛は淡々とその名を告げた。蓮は静かに首を傾げたまま、沈黙を守っている。彼女が動くたび、青紫の瞳が星屑のようにきらめき、何も語らずとも雄弁に語るかのようだった。その瞳の深さを見つめながら、甚兵衛の目元には微かな疲労の色が浮かんでいる。青い月は依然として夜空に浮かび、静かな眼差しですべてを見下ろしている。その無言の視線は、誰にも答えを与えることはなかった。
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