第3章 第一章幕 天女編
夜の帳が降りると、タソガレドキ城は濃密な静寂に包まれた。日中の慌ただしさや活気はすっかり消え失せ、ただ静かな闇が城全体を柔らかく覆い尽くしている。月光が雲間から漏れ、廊下に置かれた灯籠の炎が小さく揺らめき、壁や床に幻想的な陰影を落としていた。黄昏甚兵衛が座る広い部屋には、いくつもの蝋燭が規則正しく並び、ゆらゆらと揺れる炎が静かに部屋を照らしている。その炎は時折大きく揺れ、壁に映る影もまた微妙に形を変えていった。雑渡昆奈門は頭を深く垂れたまま、静かな声音で報告を始める。
「……忍術学園に降りた天女が、蓮を探しているようです」
彼の声は低く抑えられ、しかし確かな響きをもって部屋の静寂を破った。甚兵衛は静かに目を閉じ、その言葉をじっと噛み締めるように深く息を吐き出した。
「……蓮を呼べ」
甚兵衛の指示を受け、高坂陣内左衛門が静かに頭を下げると、衣擦れの音すら立てないような慎重な足取りで部屋を後にした。城内の一角では、蓮が静かに縁側に座り込んでいた。夜空を見上げるその瞳に映るのは、冴え冴えと輝く青い満月だった。その月の光は幻想的な青色に染まり、城の庭を優しく照らしている。庭先の池には月光が淡く反射し、水面がかすかに波打っているように見えた。時折、微かな風が吹き抜け、木々の葉がかさりと揺れ、その音は遠い虫の音と調和していた。蓮の髪がふわりと風に揺れ、長い前髪の隙間から覗く青紫色の瞳は、静かな水面のように揺らいでいる。隣には黙したまま佇む影、月光に輪郭を淡く浮かび上がらせるのは、蓮を静かに見守る忍び装束の男……山本陣内であった。