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世渡りの旅人 【忍たま乱太郎】

第3章 第一章幕 天女編


涙を拭いながらも嗚咽は止まらず、言葉を発するのもやっとのようだった。その様子に留三郎は再び問いかける。

「天女様が……」

喜三太の言葉を聞いて、留三郎は短く息を吐き、静かに少年の髪を撫でた。悲痛な思いが伝わり、夜の静けさが一層重くのしかかる。

「……お前が悪いんじゃない」

その言葉は優しくも力強く、喜三太の胸に静かに染み込んでいくようだった。喜三太は目を赤く腫らしながらも、留三郎をまっすぐ見上げる。留三郎は微かに眉を寄せ、深いため息を飲み込んだ。天女……笹田真波が、今日も感情の波に飲まれて荒れ狂っていることは容易に想像がついた。彼女の悲しみが周囲に波及するのを止める術はない。彼自身も、その渦に巻き込まれる疲労を感じ始めていた。留三郎はそっと喜三太の頭を撫で続けた。掌の感触は温かく、冷えた喜三太の心を少しずつ溶かしているように思えた。喜三太が静かに立ち上がり、ゆっくりと自室へと戻っていく姿を、留三郎はじっと見送った。その背中が闇に溶けるまで視線を離さずにいると、胸の奥に重く、苦い感情が残る。夜は依然として静かだったが、どこか心の中に重い塊が残ったままだった。留三郎は再び歩き出し、天女の部屋の前を静かに通り過ぎる。そこから漏れ聞こえる嗚咽とすすり泣きが、わずかな隙間から滲み出ていた。彼は深いため息を吐き出し、心の中の苛立ちと疲労を吐き出すように呟いた。

「……ひどく疲れるな」

独り言は夜の静寂に吸い込まれ、消えていく。蓮のいるあの静かな空間が、無性に恋しく感じられた。言葉のない彼女の世界が、どれほど穏やかであることか。留三郎はゆっくりと、夜の闇の中へ足を進めていった。
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