第3章 第一章幕 天女編
年は十五歳ほどだが、若さに似合わない落ち着きと威厳を備えていた。
「その人から手を離せ」
青年の声音には、有無を言わせぬ迫力があった。男たちは訝しげに眉をひそめ、その青年を睨みつける。
「……誰だ?」
「邪魔するなよ、坊主」
しかし青年は怯むことなく、一歩踏み出し静かに名乗った。
「食満留三郎。忍術学園の者だ」
その名を聞いた瞬間、男たちの顔色が変わった。
「……忍術学園?」
「ちっ、面倒な奴に見つかったな」
食満留三郎は冷静なまま続けた。
「ここで騒ぎを起こしたくないなら、さっさと消えろ」
男たちは舌打ちをすると、不満げに蓮と食満留三郎を交互に見比べながらも、その場を離れていった。再び静寂が訪れ、街の賑やかな喧騒だけが遠く響いている。食満留三郎は蓮の方を向き、軽く首を傾げながら問いかけた。
「……大丈夫か?」
蓮は静かに頷くと、再びメモ用紙を取り出して静かに文字を綴った。
『ありがとう』
食満留三郎はその筆談を見て、少し驚いたように目を丸くした。
「……筆談?」
蓮が頷くと、長い前髪が僅かに揺れ、顔の表情は隠されたままだった。食満留三郎は一瞬考える素振りを見せた後、肩を軽くすくめる。
「まぁ、いいさ」
そして改めて蓮を観察するように視線を巡らせる。
「誰かと逸れたのか?」
蓮は再びメモ用紙を取り出し、慎重に文字を書き込んだ。
『……尊奈門。諸泉尊奈門を探している』
その名前を目にすると、食満留三郎の眉間に僅かなしわが寄った。
「……タソガレドキの奴か?」
蓮が静かに頷くと、しばしの沈黙が流れた。やがて食満留三郎はふっと小さく笑みを浮かべた。
「そいつがあんたの保護者か?」
蓮は少し考え、小さく首を振る。
『違う……一緒に遊びに来ていただけ』
その答えを見た食満留三郎は、意外そうに眉を上げたが、すぐに表情を和らげた。
「なるほどな……まぁ、手伝ってやるよ」
気まぐれな口調だったが、どこか温かさが感じられた。そしてふと蓮の長い前髪を見つめながら、思案げに呟いた。
「それにしても、お前みたいなやつが、どうしてタソガレドキにいるんだ?」
蓮はその問いには答えず、ただ静かに彼の方を見つめ返した。