第3章 第一章幕 天女編
雑渡昆奈門はゆったりと椅子に背を預け、鋭い瞳を細めた。
「……妙だね」
彼の声は小さいながらも、広間の隅々まで響き渡るようだった。
「平成からやってきた天女、という時点ですでに異質ではあるが……その執着心は普通じゃない」
高坂陣内左衛門が険しい顔で付け加える。
「忍術学園の子たちを問い詰め、泣き喚くなんて……まるで蓮に取り憑かれたみたいだ」
諸泉尊奈門が慎重に言葉を選んだ。
「問題は、それが何に由来するかですね。私怨か、信仰か、それとも……」
広間を覆う沈黙が、再び深くなった。雑渡昆奈門は指先で机を静かに叩き、眉間に皺を寄せる。
「ただの感情で動いているなら、ますますやっかいだ。感情に囚われた人間ほど、扱いづらいものはない」
広間に広がる微かな緊張感を感じながら、諸泉尊奈門がぽつりと呟いた。
「……蓮は、どう思うんでしょうか」
その問いに対し、雑渡昆奈門は静かに肩をすくめる。しばらく考えてから、彼は虚空に指先を走らせるようにして答えた。
「きっと、こう書くだろう」
その指先が紡ぎ出した言葉は、『私は、別に興味ない』だった。広間には一瞬だけ沈黙が満ちる。
「蓮らしいですね」
山本陣内が微笑を浮かべたが、高坂陣内左衛門の顔は真剣さを失わなかった。
「しかし、すでに忍術学園には迷惑がかかっています」
諸泉尊奈門が静かな声で同調する。
「忍びの世界に情けは不要ですが……蓮が巻き込まれるのは、望ましくないですね」
広間の空気は、静かに重さを増していった。雑渡昆奈門は深く息を吐き、再び指先で机を叩いた。
「さて……どこまで関わるべきか、よく考えないとね」
その言葉に合わせるように、蝋燭の炎が揺らぎ、影が広間を静かに流れた。夜が一層深まる中、静寂の奥底では、ひとつの運命がゆっくりと動き始めていた。