• テキストサイズ

世渡りの旅人 【忍たま乱太郎】

第3章 第一章幕 天女編


タソガレドキ城の奥深く。広間には静かな灯籠の光が淡く揺らめき、石造りの壁に影をゆっくりと這わせていた。城の外では夜の深まりとともに、木々の葉擦れや虫のささやきがかすかに聞こえるだけで、城内は底知れぬほど静かだった。忍びたちの気配は息を潜め、闇の中にひっそりと溶け込んでいる。

「笹田真波は、やはり蓮を探しているようです」

低く抑えた声で告げる忍びの言葉が、静寂を切り裂くように響いた。雑渡昆奈門は深くゆったりと息を吐いた。彼は僅かに唇を歪ませるが、その瞳は冷たく鋭い光を帯びていた。

「ふぅん……やっぱりね」 

軽い口調の裏には深い思惑が透けて見えた。彼の視線の先には、静かに控える山本陣内、高坂陣内左衛門、諸泉尊奈門の三人がいる。彼らの表情にもまた、緊迫した静けさが漂っていた。 

「……厄介になったね」

雑渡昆奈門がつぶやくと、重い沈黙がさらに広間を包み込んだ。山本陣内が腕を組み、小さく唸るように言った。

「笹田真波……」

その名前を口にするだけで、緊張が周囲に伝播するのを感じた。

「忍術学園に降りた“天女”が、彼女らしい」

高坂陣内左衛門が語る声には、抑えきれない苛立ちが混ざっている。広間に立ち込める重い空気が、一層濃密さを増していく。

「しかし、どうも腑に落ちません」

諸泉尊奈門が冷静に告げ、眉を寄せながら思案した。

「普通、天女と呼ばれる存在ならば、もっと穏やかで優雅な振る舞いをするはずです。それなのに、報告によると、彼女は蓮を探して泣き喚き、忍術学園の子どもたちを困らせているとか」

山本陣内が口元を引き締め、言葉を引き継ぐ。

「それだけじゃない。彼女は蓮の姿を描いた紙を、狂ったように握りしめていたらしい」

静かな蝋燭の炎が揺れ動き、壁に映る影がうねるように歪んだ。
/ 53ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp