第3章 第一章幕 天女編
彼女の手は冷たく、その感触はどこか現実離れしていた。『蓮はどこから来て、どこへ行こうとしているのだろう……』ふとそんな疑問が彼の心に浮かぶ。彼女は、この城にとって特別な存在だった。黄昏甚兵衛、山本陣内、高坂陣内左衛門、諸泉尊奈門、そして雑渡昆奈門自身もまた、彼女を特別に想っていることを知っている。蓮はもはや、この城になくてはならない存在になっていた。だがその特別さが、同時に彼らにとって危うさも伴うことを、雑渡昆奈門は密かに感じていた。蓮がこの城を去ろうとする日が来たならば、誰もそれを許さないだろう。その執着が果たして本当の『愛』と呼べるものなのか、それとも言葉にできないほど危うい感情なのか、雑渡昆奈門にはまだ答えを見出せずにいた。ただ、彼女を失うことへの恐れが胸の中でゆっくりと膨らみ、静かな苦しみを生んでいることだけは、はっきりと分かっていた。雑渡昆奈門はそっと息を吐き、再び蓮の眠る姿を見つめた。夜の静けさの中で、蓮の指が再び微かに力を込めて彼の手を握り返した。その温もりは冷たくとも、彼の心に深く刻まれた。