第3章 第一章幕 天女編
忍術学園の静かな空気を切り裂くように、笹田真波の嗚咽混じりの叫びが響き渡った。
「なんで! なんでいないのよ!!」
真波の手には一枚の古びた紙があった。擦り切れ、何度も折りたたまれたその紙には、蓮の姿が描かれていた。六年生と五年生の忍たちは、困惑と緊張の入り混じった表情で距離を置いていた。誰もが、彼女に近づけないと直感しているのだ。その理由は、真波が纏う尋常ではない気配にあった。
「……またかよ」
五年生のひとりが、ため息交じりに小さく呟く。彼らはこの光景に既に慣れてしまった。笹田真波の蓮への執着は異常とも言えるほどだった。
「あなたたち、何か隠してるんじゃないの!? ねぇ、教えなさいよ!!」
真波の声が怒りと焦燥に震えている。六年生のひとりが苦々しい表情で答えた。
「私たちだって知らないんだよ……。勝手に言いがかりをつけないでくれ」
だが、その言葉は真波の苛立ちをさらに刺激した。
「そんなわけない! だって、蓮は……蓮は、絶対にここにいるはずなの!!!」
彼女の瞳には狂気に近い焦りが宿っていた。まるで、蓮を見つけられないことが彼女自身の世界を崩壊させるかのように。それほど蓮という存在が、真波にとってすべてであることを、周囲は痛いほど感じ取っていた。忍術学園の者たちは互いに顔を見合わせ、無言で頷き合う。
「……このままじゃ、また誰かが巻き込まれるぞ」
誰かが小声で呟いた。真波は紙を握りしめ、指が白くなるほどの力を込める。
「……どこ?」
誰に向けられたのでもない、小さな独り言。
「どこにいるの……蓮……」
風がそっと吹き抜け、古びた紙が微かに揺れた。