第3章 第一章幕 天女編
柔らかな陽射しが降り注ぐ穏やかな午後だった。縁側には蓮と諸泉尊奈門が向かい合って座り、静かに紙風船を打ち合っている。風がそっと吹き、葉擦れの音が微かに響いた。蓮は、指先で優しく紙風船を打ち返す。その姿はまるで儚い蝶が風に揺れているかのようだ。尊奈門もまた、器用に手のひらで受け止め、再び弾く。
「よっと」
彼は紙風船を弾きながら、ちらりと蓮の表情を窺った。その視線には、穏やかさと僅かな名残惜しさが滲んでいる。いつの間にか蓮はこの城に馴染んでしまった。数日前まで他人同士だったはずなのに、まるで昔からここにいたかのように、自然とその場に溶け込んでいる。少し離れた場所で、雑渡昆奈門、山本陣内、高坂陣内左衛門の三人がその様子を眺めていた。
「いやあ、まさか伊作くんが蓮ちゃんと仲良くなるとはね」
雑渡昆奈門が軽い調子で言う。しかし、その目つきには鋭さが滲んでいた。隣で山本陣内がため息混じりに返す。
「何言ってるんですか、組頭。気づいていたでしょう? 忍術学園の子がこの城に潜入していることぐらい」
その指摘に、雑渡昆奈門はわざとらしく肩をすくめる。
「えー、私を買い被りすぎだよ、陣内」
ふざけたように口元を緩めるが、目元には警戒の色が色濃く映っている。高坂陣内左衛門は腕を組み、眉根を寄せて静かに呟いた。
「まあ、私としても黙ってはいられないけどね。忍術学園の子たちには、いろいろ世話になったし」
彼らの話題は忍術学園……そしてそこに現れたというもうひとりの『天女』へと移った。雑渡昆奈門は、その天女の存在を以前から知っていた。