第3章 第一章幕 天女編
隠されていた蓮の素顔が、はらりと前髪の下から覗いたのである。彼女の瞳は青紫色に輝き、まるで無数の星屑を内に宿しているかのように深遠だった。そこには、果てしない宇宙を思わせる神秘が広がり、右目尻にある二つの泣きぼくろがさらに妖艶な魅力を添えている。一同は思わず息を呑んだ。どんな絶世の美女も霞むほどの輝きが、蓮という存在に凝縮されている。月と地上の小さな灯火ほどの隔たりを感じさせるほど、その美貌は別格だった。
「……蓮ちゃん」
沈黙を破ったのは雑渡昆奈門である。軽やかな口調が印象的な男だが、この時ばかりは声音がどこか真剣な響きを帯びていた。
「その姿は、私たち以外には見せちゃダメだよ」
蓮はふと彼を見つめ、静かにペンを執ってメモ用紙に短い問いを記す。
『どうして?』
雑渡昆奈門は苦笑しながらも、真剣な表情を崩さないまま続けた。
「この世界ではね、“美しすぎる”というだけで、人の運命が狂わされることがあるんだよ」
蓮の瞳が、切なげな色を湛えながら彼を見つめる。しかし、雑渡昆奈門はそれ以上何も言わなかった。静かな風が再び広間を通り抜け、元のように蓮の前髪を揺らす。こうして、幻のような美しさは再び覆い隠されるのだった。