第2章 波乱の1日
助け舟を出してくれるかは不安であったが、意外にも機転が利くようだ。リリスは心の中で「ナイス、ファインプレー!」とガッツポーズをしていた。
「リリスに、恋人だなんて…ありえない。」
そのまま怒鳴ってくるのかと思いリリスは耳を塞ぎかけたが、怒鳴ってくるわけではなかった。ただ、氷のように冷たく、暗く、彼の声が沈んだ。
アンリは怖いほどに無表情で、静かに、リリスに近寄る。
それには少し身を強ばらせた。
「大丈夫だよ。小生がいる限りはねえ。」
それに気づいたアンダーテイカーは、子供をあやすように囁き、リリスを抱きしめている腕にさらに力を込めてくれた。
さっき出会ったばかりなのに何故か、「この人がいるなら大丈夫か。」と安心してしまう。それに応えるようにリリスも腕に少し力を込める。
「なあ、リリス。俺達はあんなにも愛し合っていたじゃないか。婚約者がいるというのに、いきなり他の男に乗り換えるだなんて…。許さない。」
「いったい、いつ僕達が婚約なんてしたんだ?僕たちはもう縁を切ったじゃないか。」
「いいや、俺は認めていなかった。両者の同意がなければ、もちろんその話は成立しない。」
話が通じない。リリスは色んな意味で恐怖を覚えた。すると、後ろからプッと吹き出す音が聞こえた。
「プッ…フッ、ギャハハハハハハッ、ヒーヒッヒ、ヒャッヒャヒャ!ヒーッ…ヒヒ」
「うわうるさっ!」
アンダーテイカーがいきなり大声で笑い出したので、あまりにうるさく、顔をしかめてしまう。
アンダーテイカーは、あまりに面白かったのか、リリスを抱きしめたままその場で暴れ始めた。
「ちょっ、暴れるな!苦しい!」
リリスはバシバシとアンダーテイカーの腕を叩く。
アンリは、目の前で何が起こっているのか分からないというような顔をして、立ち尽くしていた。
「いやあ、小生は、てっきり両者とも同意のもとで婚約して、何らかの理由でリリスが一方的に逃げているだけだと思っていたんだけどねえ…ヒヒッ」
笑いをグッと堪えながら話しているせいか、途中、言葉が途切れ途切れになっていた。
「まさか、それが、ヒッヒヒ…君が、一方的に婚約したと思い込んで、執着しているだけとはねえ、」