第4章 恋人2日目
猫に話しかけては帰ってきた鳴き声を全て自分の都合のいいように捉える。それはなんとも奇妙な光景であった。
「...おい、1人で何をしているんだ」
「見ればわかるだろ?猫と遊んでるの。」
「はあ、そうだな...って、おいセバスチャン!」
いつの間にかセバスチャンはリリスの隣に腰かけ一緒になって猫を愛でていた。
「あなたは美人ですね。しなやかな黒髪にぷにぷにの肉球...。ああ、なんとも愛らしい。はあ、うちの主人にもこれぐらい可愛げがあればいいのですが…」
「可愛げのない主人で悪かったな」
セバスチャンは眉を寄せ、呆れたようにシエルの方をちらりと見て、それにシエルは静かに怒りを露わにする。
「まあまあ、シエルはもう既に可愛いから大丈夫さ」
「貴様ら...!2人まとめて海にでも沈めてやる!」
リリスの言葉が火に油を注ぎ、シエルが怒りの声を上げる。するとシエルの声に驚いた猫たちが、セバスチャンとリリスの腕をすり抜け、走って逃げて行ってしまった。
「あぁ、逃げちゃった...」
「フンッ、自業自得だ」
リリスが悲しそうにすると、シエルは嫌な笑みを浮かべながら言った。
まあ、1番悲しそうな顔をしていたのはセバスチャンだったのだが。
ああだこうだ言い合っていると、ガチャりと扉の開く音がして、葬儀屋が店から出てきた。
「こらこら、喧嘩しないの...みんなまとめて小生特製の棺桶に閉じ込めちゃうよォ〜、ヒッヒ…」
葬儀屋はシエルとリリスの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。シエルは鬱陶しそうに葬儀屋の手を払い除け、リリスの方を見て言った。
「ここ最近物騒な事件が起きている。お前もせいぜい気をつけるんだな」
リリスがこくりと頷くと「じゃあな」とだけ言い、セバスチャンを連れて馬車で走り去って行く。
その姿を見送ったふたりは、再び店の中へ戻った。
リリスは棺桶の上に腰かけ、骨型のクッキーをかじる。
「もうすっかり伯爵と仲良しだねえ」
「仲良しだなんて...きっと向こうもそう思っていないよ」
「ヒッヒ、それはどうだろうねえ?ああ、それと...」
葬儀屋はリリスの隣に腰かけ、リリスをひょいと持ち上げて自分の膝上に乗せた。