第2章 波乱の1日
「本当に!?ありがとうございます!」
てっきり「ダメだよ〜」とか言われるのかと、身構えていたが、杞憂であった。
「僕はリリス・アイラスと申します。貴殿のお名前は?」
恋人というのに名前を知らないのもおかしいので、銀髪の男に名前を問う。
銀髪の男はまたもやゆらゆらとしながら、ゆっくり口を開いた。
「小生はねぇ、みんなからはアンダーテイカーと呼ばれているんだ。お嬢さんもそう呼ぶと良いよ。ヒッヒッ…」
「そうなんだ、いい呼び名…だ、ね」
リリスは、後ろから肩を叩かれ、思わず凍りついた。振り向くと、そこには元恋人であるアンリが居たのだ。
「こんばんは、俺の可愛い婚約者。」
!!!!もうここまで来ていたのか…。しかも、いきなり堂々の婚約してますよ宣言!してないよ!こいつの頭の中にはいったいどんな記憶が入ってるんだ?
リリスは笑顔をひきつらせながら、何とか挨拶に応える。
「こ、こんばんは。久しぶりだね、アンリ。」
「おいおい、いつの間にそんなによそよそしくなったんだ?俺たちは愛を誓い合い、婚約までした仲じゃないか。」
アンリはリリスの肩を抱き寄せ、いちごみるく色の髪の毛を一束手にとった。そして優しく口付ける。
「うっ…」
リリスには思わず鳥肌が立つ。あまりの気色悪さに手を振り払おうとすると、ふと後ろから誰かに抱き寄せられた。
「アンダーテイカー…?」
急なことであり、思わず目を見開いてしまう。顔に触れる銀髪がなんだくすぐったく、お香のような香りが鼻をかすめる。着痩せしていてかあまり分からなかったが、身体は意外にがっしりとしていた。
「あまりベタベタと触るのはよしてくれないかなぁ。この子はねぇ、小生の大切な恋人なんだ。」
アンダーテイカーは翠の瞳を覗かせ、アンリをじっと見つめる。顔は笑みを浮かべたままであったが、それがなんだか圧を感じる。
「恋…人……?」
それを聞くなりアンリは目を見開いた。その表情は驚きと言うよりも、怒りに近いように見えた。
「うん。実は最近交際を始めてね。凄くいい人なんだよ、彼。」
リリスはくるっと振り返り、アンダーテイカーの背中に腕を回して幸せそうな笑みを浮かべる。
もちろん演技なのだが。