第2章 波乱の1日
バレていないことを祈りたかったのだが、彼は1度薄らと意味ありげな笑みを浮かべると、群がっていた女たちに会釈をし別れを告げ、こちらに向かって歩いてきた。
まずい!!とにかく逃げないと、なんだか殺される気がする!
命の危機を感じ、リリスは再び人の間をくぐり抜けながら距離を取っていった。しかし、リリスが歩みを進めれば進めるほど、アンリはスピードを上げて後をおってくる。
リリスは仕方なく、あの方法を使うことにした。
以前本にでてきた、そこら辺にいる人に恋人の振りをしてもらい、追い払うというやつだ。できればそんなことはしたくなかったが、今回ばかりは命が危ない。
リリスは颯爽とバルコニーに駆け出し、目の前にいた男の人に声をかけた。
「すみません!!そこの殿方!」
少し焦りすぎただろうか。近くを通った人々が方をピクりとはね上げたような気がした。
「ん〜?」
振り向いたのは美しい銀髪の男であった。目は髪で隠れて見えず、顔に傷跡がある。なんだか不思議なオーラを纏っていた。
「それは小生のことかい?」
「はい、そうです。えっと…」
後ろをちらりと見てみると、アンリがバルコニーに入ってくる寸前まで来ていた。時間が無い。
「急で申し訳ないのですが、僕の恋人のフリしてください!」
「恋人〜?」
銀髪の男はキョトンとしているように見えた。しかし、口元は変わらずニヤニヤとしている。
「話すと長くなるんだ、今はとりあえず時間が無い。お願いします!!」
リリスは必死の形相で男の服を掴みながら訴えかけた。
すると男はニタニタと笑いながら顔をのぞこんできた。どこか楽しそうである。
「ヒッヒッヒッ…別にいいけどねぇ…。タダでとは言わないよ?」
クソッ、人選をミスった。面倒くさすぎる。
リリスは内心、後悔していた。
「えぇと、後払いで頼みます。もし僕が払わずに逃げたとしたら、僕の家を燃やしてくれてもいいから!!」
今は冷静に物事を考えてはいられない。家を燃やすだなんて、ダメに決まっているのだが。
銀髪の男は少し迷う素振りを見せてから
「うーん、仕方がないねぇ…。今回だけだからね」
と、リリスの頼みを承諾してくれた。