第4章 恋人2日目
「私はファントムハイヴ家執事のセバスチャン・ミカエリスと申します。」
セバスチャンは名乗り終えると、よろしくお願いしますと一礼しにっこり笑って見せた。
それに応えるようにリリスも一礼し、もう一度確認するために口を開く。
「シエル・ファントムハイヴ様とセバスチャン・ミカエリス様ですね。」
「タメ口でいい。シエルとでも呼べ」
いきなり呼び捨て!?タメ口は了承するとして、さすがにそれは失礼な気がするからせめて…
「えぇと、シエル君…で、いいかな?」
「はあ!?」
シエルの顔が一気に赤くなる。
そんなに嫌だったか?君付けされるの。
どうすればいいか分からず周りを見渡すと、セバスチャンは口元を抑えながら肩を震わせ、葬儀屋は腹を抱えながら大爆笑している。
「ンフッ、うちの、主人が、フフッ、申し訳ありません。うちの主人は女性の方からシエル“君”と呼ばれるのが、恥ずかしかったようです」
セバスチャンが笑いをこらえるためか、途切れ途切れに言葉を紡ぎながら主人の気持ちを代弁してくれた。本当かどうかは分からないが。
リリスはこの言葉に母性本能がくすぐられ、思わず
「うっ…かわい゛い゛っ」
と、地面に手をついてしまう。
「ングフッ」
セバスチャンが耐えきれずに吹き出し、葬儀屋はついに限界を迎えたのか、声は出さずに地面にしゃがみこみながらピクピクと痙攣している。
「はあ!?おいセバスチャン!!余計なことを言うな!」
シエルは明らかに動揺しながら、セバスチャンに向かって怒鳴りつける。
「伯爵がっ、シエル“君”で、か、かわいい…ブフォッ」
「う、うるさい!」
シエルはセバスチャン同様、葬儀屋にも怒鳴りつけるとリリスの方に向かって歩いてきた。そして、ステッキをリリスの前につきつける。
「次僕のことを君付けやら可愛いやら言おうものなら、もう二度と自由の女神を拝めなくなると思え!分かったなリリス!!」
よっぽど怒っているのだろうけど、恥ずかしさの方が上回っているように見えてあまり怖くなかった。やはり子供は皆子供なのだ。リリスはそんなシエルに対して動じずに、笑みを浮かべたまま応えた。
「分かった。じゃあ次からはシエルと呼ぶよ。軽率な発言をしてしまって申し訳ない。」