第3章 恋人
「はい!どうしたの?」
「少しお願いがあってねえ。一晩の間、この子を借りてもいいかい?」
「えぇっ!?」
リリスは先程の恥ずかしさなど忘れて、顔を上げる。なぜ本人ではなくスピアに許可を取ろうとするのだ。
「ええ!もちろんですよ!」
「ちょっとお!?」
今度はスピアのほうに勢いよく顔を向ける。何となく予想はついていたが、ここまでキッパリ言われると複雑な気持ちになる。
アンダーテイカーはそう来なくっちゃと言わんばかりの笑みを浮かべた。
「ヒッヒッヒ、ご協力感謝するよ」
アンダーテイカーとスピアの間には謎の絆が生まれてしまったようで、がっしりと握手を交わしていた。
…こんなにも最悪なタッグが世界に存在するだろうか。もし存在するならば、是非ともお目にかかりたいものだ。
「あっ!でもその代わりに…」
この一瞬の間でも、嫌な予感がした。スピアはリリスの耳元に顔を近づけると、こう囁いた。
「今夜、何が起こったのかは絶対に教えてね♡」
「はあ!?」
リリス顔が再び、カッと熱くなる。こいつは一体何を想像しているんだ?
スピアはパチリとウインクする。可愛いが、このタイミングでして欲しくはなかった。
「ヒッヒッ…わかったよお。それじゃあ、小生たちは失礼するとしよう」
「えっ、ちょ、ちょっと!」
アンダーテイカーは慣れたようにリリスを横抱きにした。
スピアはそれを見て「姫と王子みた〜い!」とはしゃいでいる。
彼女の目には一体どんなフィルターがかかっているのだろう。
スピアは元気よくこちらに向かって手を振った。
「バイバイリリス〜!頑張ってね〜!」
「いや、何を!?」
「ヒッヒッヒッ…随分と面白いお友達だねえ」
そう言うと、アンダーテイカーは音楽に合わせてステップを踏みながら、屋敷の扉へと向かう。
まるでワルツでも踊っているかのようだ。
くるりとターンしたり、少し飛び跳ねたり。
自己流ではあると思うが、遊び心が感じられ、抱えられているだけの自分も楽しく感じられた。