第5章 龍の年貢の納め時
擦り傷や打ち身の手当てをされた夜梟は難儀なものだなとため息を吐いた。
『戦いの時ほど憑鬼に戻りたいと思うことはないな』
「止めてくれ」
まさかアレックスが拒否するとは思わず、受け取ったコーヒーを飲む手を止める。
「お前の記憶や感情があいつらに伝わるのは面倒だ」
確かにそれらの取捨選択は夜梟にはできない。としての記憶と感情。
ふふ、と思わず笑ってコーヒーを口にする。
『君は必ず私に牛乳と砂糖の入ったコーヒーを入れてくれる』
アレックスは黙って煙草を出して、しまった。
『副流煙の心配は不要だ』
「信用ならん」
また夜梟が小さく笑う。
『君は良い父親になる』
そんなわけないだろう。人殺しだぞ。お前のことだって滅茶苦茶にしたんだぞ。
『安心しろ……生まれてくるのは私の子ども……化け物の子どもだ』
「お前はただの未来人だ」
意外な言葉に夜梟は長い睫毛を上下させる。
『君もただの現代人だ』
アレックスはフンと鼻を鳴らした。