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君と悪循環を抜けるために私にできること

第5章 龍の年貢の納め時


しまったと思った時には遅かった。野狗子を追いかけるあまり夜梟から離れすぎた。
血の武器が溶けるように消え、野狗子の攻撃を避けようとしてバランスを崩す。
ここは屋上で、今自分は縁にいるのだった。
生身で落下して耐えられる高さではない。死ぬ直前に夜梟が憑依すればあるいは。いやもうアレは憑依できないのだ。
『アレックス!』
聞き慣れてきた声だがこんなに感情を露にしたものは初めてだ。そんな走ったり、必死な表情もするのか。
「馬鹿、来るな!」
野狗子の鎌と化した腕が無防備な女の背中目掛けて振り下ろされるのがスローで見える。
「クソッ!」
腕をつきだし血の銃を再成形する。間に合え、いや間に合わなくていい。完成前にトリガーを引く。腕が炸裂するが野狗子の腕も吹き飛ぶ。そしてアレックスの体は完全に宙に投げ出された。
それでも最悪の事態は回避できたと思うのもつかの間、夜梟がビルから飛び降りてくる。
馬鹿が、お前の体は血の力で強化できないんだぞ。
『アレックス!』
二度目の呼び掛けに千切れていない腕で華奢な体に手を伸ばす。抱き寄せて血のワイヤーを飛ばし看板に絡めとる。
とりあえず落下死は免れた。
腕を再生して、血が足りないのを感じながら、一方で腕の中の女が生きていることを実感する。
「何故飛び降りた」
『落下する君に私の力が届かないと判断した』
「俺よりお前の命だろう」
お前がいなければ野狗子を殺せない。お前がいなければ未来は変わらない。
しかし夜梟は困ったように答える。
『私には君なしの未来は想像できない』
何故俺なんだとは問えない。自分のしたことの自覚がないほどアレックスは愚かではない。けれども自分の行為と彼女の好意が繋がらない。理解できない。
『理解できなくていい。ただ君の命も大事にして欲しい』
無事かと上空からエドの声が聞こえる。腕の中で返答をする夜梟を落とさぬようアレックスは静かに力を込めた。
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