第3章 微睡みの現世
肉を断つ感触、発砲の反動、血飛沫が顔や体を叩く。
リサの断末魔。妹の断末魔。母の、父の。
殺したのは俺だ。違う野狗子だ。脳を喰らって成り代わる。ソレはもう本人ではない。
どんなに同じ姿で同じ声で同じ言葉を投げ掛けてきたとしても。
俺が殺すのは野狗子だ。リサじゃない。妹や母や父ではない。
悲鳴は、縋る手は全て紛い物だ。
俺は。
アレックス。
リサでも妹でも母でも父でもない声。
アレックス。
こんなに柔らかな声を聞いたのはいつぶりだろう。
もう俺は一人のはずなのに。
君は一人ではない。
声が返ってくる。
君を一人にはしない。
何故だと問う。俺に構って得られるものなどない。
声は理屈ではないと少し笑う。
未来に一人だった私と過去に一人留まろうとする君。現代を生きるにはちょうどいいバランスだと思わないか?