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真っ直ぐに歪んで【文スト/短編集】

第1章 それでも君は、【太宰治】


こんな時、
きっとあの蛞蝓ならば




臭い台詞の一つや二つを吐き、
目隠しを解いて接吻でも交わすのだろうが。






お生憎様、
私にはそんな歯痒い真似は出来ない。





だから精々その白く艶めかしい
太腿に手を添えて、
首筋に一つ紅い華を浮かべよう。





何も言わず、
何も聞かず、
抵抗もせず、





唯私が華を咲かせ終えるのを
待つ宵朝は
少しだけ鼓動を跳ねさせている。





思わず感嘆の声を漏らしそうになる。





まるで雪原に咲く彼岸花だ。
その白い肌に濃く残る印。





私がつけた、紅く染る印。





それを見ただけで
私の情欲はふつふつと湧き上がる。





さらに歪んでいく口元を抑えながら、
宵朝を拘束する鎖の繋がった
コンクリートの柱に手をつく。





光源の乏しい地下の蛍光灯がちかちかと
瞬くのに合わせて、
宵朝に落ちた影も疎らになる。





その影の先、
宵朝の後頭部に手を回し、
髪を撫であげるように目隠しを外した。





「っ…!」





目を細めて此方を見上げている。
その姿が何も愛らしい。






突然の明るさだったからか、
予想外の出来事だったからか。






「太宰、?」





私が何も発さないことを
疑問に思ったらしい宵朝は
細めていた目をさらに細くした。






こんな状況で。
彼女は私の事を按じているというのだ。






此方としては、
そんな態度に興奮などしていることを
悟られないようにしたいのだ。







「いやぁ悪いね。手荒な真似をしてしまって」
「太宰、」






先程もそうだった。
私が誘拐したとわかった時も宵朝は





安堵していた。





何が安心なものか。
誘拐した本人ですらその心情を知りたい。






そして今もまた、
宵朝は私の発言に、






否、発言したことに、
安堵していた。





また堪らなくなってくる。






人は抱擁や接吻で愛を確かめる事が
普通なのだろうが、
普通から外れてしまった人間は
こうやって愛を表現するのだ。









「ねぇ宵朝、私の____」
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