第1章 それでも君は、【太宰治】
夜景の見えるホテルの一室。
せっかく宵朝と二人きりであるのに、
何故か私達はベッドには居ない。
「宵朝、分かっているのかい?」
「分かってるってば」
先程からこのような会話を、
宵朝が淹れた紅茶を飲みながら話していた。
本当に#NAME1#は分かっているのだろうか。
第一、ホテルに着いて早速紅茶を淹れ始めるような人が、
これからなにをされるか本当に分かっているとは思えないのだ。
「太宰、頭抱えてるところ悪いんだけど」
「なんだい?」
「シャワー浴びてきてもいい?」
この発言を聞いてから、
おそらく、
久しぶりに怒りというものが湧いた。
「もちろん、」
「じゃあ_」
「善い訳がないだろう。」
「え?」
「善い訳ないじゃあないか。本当に分かっていないねぇ君は」
宵朝は怯えたような顔だ。
とても可愛らしいその顔をもっと酷くしてやりたい。
この部屋に入ったら最終的にはこうなっていたのに。
何を躊躇っていたのだろう。
遅かれ早かれ宵朝をぐちゃぐちゃに壊すことは
目に見えていたじゃないか。
ならば、
今すぐにその美しい身体も精神も
食い潰してしまおう。
ローテーブル越しに見つめ合ったままだ。
ティーカップを持った手を強く掴むと、
驚いた表情を見せながらも
カップを倒さぬように即座に手を離した。
まるで警戒心のない不用心な様子に
やはり少し苛立ってしまう。
「そんなにも容易く手を掴まれては、ポートマフィアではやっていけないだろうに」
「どういう意味?」
「其の儘の意味さ」
少しの間だけ強く手を掴み、
軽く離すとゆっくり手を絡めとる。
先程までの高圧的な言動とは裏腹な仕草に
不安を抱いた表情に変わった。
「ねぇ、太宰」
「なんだい?」
「ここは、ポートマフィアでは無いよ?」
先刻の発言の答えだろうか。
確かにここは、
今のこの場所はポートマフィアでは無い。
だが_
「だから、気を抜いているんだよ?」
「……」
「もっと言うと、太宰だからだよ」
自分の人生でこんなにも在り来りな
愛の言葉を囁かれる日が来るとは思っていなかった。
「あぁ、そうか」
「そうだよ」