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真っ直ぐに歪んで【文スト/短編集】

第1章 それでも君は、【太宰治】


拘束され、
体を強ばらせる宵朝は、
それでも尚、美しかった。




何も纏っていないからこそ、
彼女の魅力全てが引き出されている。




昔の画家たちがこぞって女の裸体を
描いていた理由が分かる。





そこに女神がいるのだ。
そう錯覚する程に、
今の宵朝は美しい。





あぁでも、
画家たちはもどかしかったろうな。




何故ならこの美しさは、
目には見えても
絵には描けない。





たった数百色の絵の具では
この光景は写せない。




ましてやフィルムにだって焼けない。





いやもういっそ、
目だって全ては見えていないのではないか。





人間の限界を超えて、
1600万の色を識別出来るある種
機械になりたいとさえ思う。





宵朝が息を殺してこちらを伺う。





そんな事をしても、
匂いも音も全て消しているに
決まっているじゃあないか。




そう囁いてあげたい。




何も聞こえず何も情報が掴めないことに、
宵朝はあまり動揺はしていないようだ。




それもそうだろう。




彼女は現役のポートマフィア幹部なのだから。
この程度では怯まない。





そういうところに酷く唆られる。





その強く聡い心を
壊して、
砕いて、
何も残らない空虚にしてしまいたい。





そして、
その空いた部分には
私だけを知って、
私しか受け入れられないようにしたい。





願わくば
私が居ないと生きていけないほど、
落ちて欲しい。





最低最悪になっても、
私だけが宵朝を愛せばいい。





また、
気持ちが抑えられそうにない。





しゃがみこんで宵朝と同じ目線になる。





もう、
その固く引き結ばれた唇と
私の歪んだ唇とには
三分程しか距離はない。





少しでも息をしたら、
私だと見抜けるだろうか。





どうせ後に分かるけれど、
この状態の宵朝に見破られるのであれば、
ちゃんと判ってほしい。





そっと耳を注視して、
近づく。






最大限愛情を込めて、
息をふきかけた。
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