第7章 感情の名前
菊地原side
あいつに出会ったのは2年前の入隊式だった。
同期に凄い奴がいるってことで注目されていたから、僕もそこで一方的にあいつを知ることになった。向こうがその時に僕のことを認知してたかなんて分からないけど、僕にとっての出会いはそこ。
スコーピオンの扱いが上手くて気が強め。でもそれを鼻にかけたり、他人を見下したりはしない人間。一言で言えば"まだムカつかない天才肌"。それが第一印象だった。
圧倒的な速さで正隊員になって、そんな天才は僕なんか眼中に無いだろうと思ってた。あの時までは。
『風間さん、この人です。強化聴覚を持った同期。菊地原くん』
そう言って後の隊長になる風間さんを連れてきた鳩原を見て、認知が一方通行ではなかったことを知った。こんなショボイサイドエフェクトを持つ僕が、天才だと噂される僕と正反対な君の視界にいた事が、ほんの少しだけ嬉しかったりした。
風間隊を結成してから、同期からチームメイトになり1年近く背中を預けて戦った。高校も一緒になって、関わることなんてないと思ってた過去とは酷い違いだと思う。
天才は嫌いだけど、認めてやってもいいかな…なんて思っていた頃、鳩原の姉が近界に失踪した。そして重要規定違反者としてボーダー内に晒され、二宮隊は降格処分。
その知らせを受けた鳩原の顔は今でも忘れない。
絶望、怒り、悲しみ、後悔
この世の負の感情全てをぐちゃぐちゃに混ぜたような顔。
鳩原のお姉さんの事は二宮隊の技術だけは凄い狙撃手って認識だったけど、鳩原のあの顔を見てから、どうしてもあの人が許せなくなった。
鳩原にあんな顔させて、責任感じさせて、苦しませて、極めつけに風間隊を辞めさせるに至った元凶。
二宮隊になんか渡してたまるか。
鳩原は風間隊の隊員でしょ。
だから僕は祈ってる。二宮さんの気が変わらないように。鳩原の気が変わるように。
それに君に狙撃手なんて似合わないよ。あのスーツより風間隊の隊服の方が似合うし。
こういう感情ってなんて言うんだっけ
ああ
菊地原「独占欲ってやつ?」