第7章 感情の名前
…unknown…
鳩原姉妹は似ていない。
誰がそう言い出したかは分からないが、気づけばそれはボーダーの共通認識になっていて、ついに本人達もそう公言しだした。
姉はそばかすのある地味な風貌で、性格も控えめ、そして人も撃てない狙撃手。
妹はツリ目気味の目にどちらかと言えば美人と評される顔立ちで、好き嫌いがはっきりした性格、そして米屋程じゃないがランク戦ブースに入り浸る戦闘狂。
これを並べれば誰でも似ていないと結論づけるだろう。
だが、あの姉妹は根本的なある部分が似ていた。
遠征に行きたいのは自分なのに、自分のせいで遠征に行けない、部隊に迷惑をかけていると思い込み、自分を追い込んで思い詰めて、自分の勝手で近界へ渡った姉。
姉の規律違反を自分の責任のように感じ、B級へ降格になった部隊にお門違いも甚だしい罪悪感を覚え、なんの責任もないのに責任を果たそうと勝手に部隊を辞め、B級へ落ちてきた妹。
どこが似ていないと言うんだ?
思い込みの激しさと、無駄な行動力は迷惑なくらいそっくりじゃないか。
そんな姉妹との出会いは2年前。妹の方が俺に何故か懐いていて、その繋がりで姉のことも知った。隊の最後の一人を探していたのもあって、妹は是非ともその枠を自分にと主張したが、隊のバランスや風間さんが妹の方に目をつけているという話もあり、妹は断り姉の方を選んだ。
俺より風間さんの方があいつを上手く使えると思ったし、あいつの戦闘スタイルだとうちより風間隊の方がピッタリだと思った。その考えを証明するように風間隊はメキメキと力をつけA級3位にまで上り詰めていたしな。
それなのに、姉の規律違反でB級へ降格になった俺たちに気を使ったのか知らないが、A級3位の席と戦闘スタイルをあっさりと捨て、東さんに弟子入りをした。
妹をよく知る奴らは、あいつがそんな意味不明な行動をした理由を理解しているだろう。あいつが姉の穴埋めとして、二宮隊の空いた狙撃手の席を狙っているということを。
本当に、迷惑なくらい似ている。
気にしなくてもいいことをいつまでも気にして、無駄な行動力を発揮しては空回りして1人で苦しんで。
早く諦めて欲しいものだ。
姉の穴埋めや、申し訳ないという罪悪感で入隊を目指してる人間を、俺の隊に入れるつもりは毛頭ない。
あいつには、うちよりも輝ける場が他にあるからな。
