第7章 感情の名前
ラウンジでの昼食を済ませ、東隊の作戦室なら静かかなと考えながら廊下を歩いていれば、前方から辻先輩がやってくるのが見えた。
『…お疲れ様です。先日のランク戦ではありがとうございました。また当たった時はよろしくお願いします』
辻「あ…う、うん。お疲れ、様」
辻先輩は女性が苦手だ。普通に接することが出来るのは氷見先輩と姉くらいだとか。
もし私が、外見も性格も姉に似ていたら、この人は姉に接していたように私にも接してくれていたのだろうか。
『そうだ、先輩。もし私が二宮隊に入ることになれば、チームメイトということになりますし、良ければ私も先輩の中の話せる女子の枠に入れて貰えると嬉しいです』
私がそう言えば先輩は顔を赤くしてコクコクと頷く。
『名前も鳩原だと姉と被りますから、美晴って呼んでください』
辻「そ、れは……」
『……すみません、調子に乗っちゃいました。…姉と全然似てないですよね。性格も外見も。もし、私が姉に似てたら、皆さんはもっと早く私を二宮隊に入れてくれてましたか?』
辻「……」
困ったように視線を彷徨わせる辻先輩に申し訳なくなり、慌てて話を変える。
『そういえばこれからお昼ですか?今日の日替わりパスタとても美味しくて…』
辻「…似てない、けど…俺は、鳩原…美晴…さんは、そのままでいいと、思う。隊に入れるか決めるのは、二宮さんだから…俺は分からない、けど…もし入ることになったら、そのときは…ありのままの美晴さんが、いいと思ってる」
『そう…ですか』
辻「じゃ、じゃあ…俺はもういくね」
『は、はい』
パタパタとラウンジへ向かう辻先輩の背中を見えなくなるまで見つめる。目がジンっと熱くなり、顔に熱が集中した。
((ありのままの私…?それって…どんなだっけ))
でも、誰かの背中を追って、その人になろうとして、そうしないといけないと思い込んで、ありのままの自分を捨てていた私に、先輩の言葉はとても暖かかった。
そして二宮隊の人達が好きになればなるほど、そんな彼らを裏切った姉がどうしようもなく許せなくて憎くて恨めしい。
そう思ってしまうのがありのままの私なのだとしたら…私は
そんな自分が
『ほんと、大嫌い』