第1章 戯れ
「どうした、これでも答えぬか」
珠世の帯を解き、着物を脱がせて襦袢姿にする。
それでも珠世は俯き、頬を朱に染めながら唇を噛み続けている。その姿の全てが無惨の嗜虐心を刺激した。
しかしその時おや、と無惨は思った。襦袢の胸元、合わせ部分が濡れていることに気付いたのだ。
「どうした、襦袢が濡れているではないか」
はっとしたように珠世は顔を上げると、ややあって観念したように噛んだ唇を緩めた。
その唇の隙間から「お乳を搾っていたところでしたから」という言葉が漏れた。
──そうか、この女には幼子がいたのだったな──
その瞬間、無惨は全てを理解した。
「もしやお前はいつも数刻おきに乳を搾っていたのか」
目を合わせることなく珠世は小さく頷いた。
すう、と息を吸ってみると確かに襦袢の下から乳と血の匂いがうっすらと漂った。女特有の匂いだ。
その匂いは、無惨の鬼としての理性を大きく揺さぶった。
途端に俯いている珠世の手を強引に払い除けると、襦袢の前を露わにした。
「何をっ……!」
珠世は睨み付けながら襟元を搔き合わせようとしたが、その力はあまりにもか弱く、儚かった。
開いた襦袢からは、その華奢な体には似つかわしくない程ふくよかな乳房がこぼれている。
母乳で張っているのだろう、白い乳房に青い血管が走っている。そして乳頭は大きく、卑猥なまでの墨色をしていた。
「ほう……」
無惨が戯れにその張った乳房を揉みしだくと、黒ずんだ乳頭から勢いよく数本の白い弧が迸った。
「やめてッ……!」
「どうせ搾り捨てるつもりだったのだろう。生娘でもあるまいに何を言う」
そう言って乳頭を口に含むと、甘い味とほんのりとした血の味が口の中に広がってゆき、それと同時に無惨自身がやんわりと鎌首を擡げ出す。
──そうか。鬼になった女の乳にはこのような作用があるのか。
鬼になってから、およそ肉欲などというものを忘れていた。自身が屹立するということもなかった。食欲や睡眠欲と同様、失ってしまった欲だと思っていた。
しかし、この珠世という女に対する執着──常に側に置いておきたいという欲求の出どころが何なのか今はっきりと解った。
──この女に欲情しているのか──