第2章 白鳥沢受けることにした
国見くんは普段部活のことはほとんど話さない。話したとしても、練習がキツイとか試合の勝敗とかそれくらい。だからそもそもこの口から飛雄の名前を聞いたことがなくて一瞬動揺してしまった。
…ってちょっとまって、気になることが多すぎる。第一志望をなかなか言ってこないと思ったら推薦蹴ったって?しかもなんなんだ、その王様というあだ名は。そういえば、この前の試合会場でなんかそれっぽい言葉を聞いたような気がする…たしか、
『…コート上の、王様?』
「あれ?なんだ鈴木、影山のことは知ってたんだ」
そう言いながら国見くんの目は何故か私を鋭く見つめて、反射的にそれから逸らしてはいけないと思った。
『いや影山くんのことは知らないけど、それはどこかで聞いたような』
「……あ、そ」
私たちが幼なじみであることを中学からは意図的に隠していた。秋山小から北一に入学した人はほとんどいないし、何より小学校時代のとある出来事を繰り返したくなかったから。
ブブブッ
ポケットの中のスマホが震える。取り出して確認するとそれは飛雄からのLINEだった。
『……はあ!?』
突然大きな声を上げた私に教室がシン、と静まり返った。慌ててニコニコと取り繕うと喧騒を取り戻す。
「びっくりした、なに急に」
『国見くん、私志望校決めた』
「いつ?」
『今』
「…は?どこ?」
『白鳥沢』
「はあ!?……まじかよ、やば」
飛雄からのLINEには、
〈白鳥沢受けることにした〉
〈絶対にお前には負けねえ〉
と書かれていた。