第25章 あの日
その視線に気付いた飛雄は、首を傾げて私を見る。
「なに?」
『!…っな、んでもない』
「?」
バッと勢いよく目を逸らした視界の端で、飛雄が不思議そうな顔をしていた。なんだか変に意識をしてしまって、途端に私は気まずくなる。
だっておかしいじゃん、
手を繋いでみたいなんて。
…飛雄もいつか彼女と手を繋ぐのかな、なんて。
『〜〜っ!』
頭の中の妙な考えを振り切るようポケットに手を入れると、カサリと指が何かに触れた。
『…あ、』
ツッキーにもらったいちごミルク。
私はとにかく気持ちをそらしたくて、包み紙の両端を引っ張って中身を取り出す。そして三角形の飴を指で摘み口に放り込んだ。
『……ん〜!やっぱこれ美味しい!』
わざとらしく声に出してみたけど、どうにも切り替わらない。今すぐにでも噛み砕きたい気持ちを抑えながらカラコロと舌で飴を転がしていると、ふいに隣からカフェにいた時のような強い視線を感じた。
『あ……あの、ごめんこれ1個しか…』
「…別にそういうんじゃねえよ」
どこか柔らかいその声に私は顔を見上げた。すると、飛雄はフッと口角を上げて笑った。
『!』
「お前、少しは落ち着いたのかよ?」
『あ……えっと、』
「…ちょっと安心した」
『え?』
「なあ、」
『うん?』
「……仕方ねえから待っててやる」
飛雄が何のことを話しているのか、私にはさっぱり分からない。それでも、その優しげな目に見つめられて胸がキュッと痛んだ。
その痛みは、私のよく知る苦しい痛みではなくて、なんだかくすぐったいような温かさを帯びていた。
『……っ』
初めて味わうこの胸のざわつきに私は戸惑いながらも、口に広がるいちごミルクの甘酸っぱさに目を細めた。