第2章 白鳥沢受けることにした
進路指導担当 side
目の前に並べられた成績資料をどれだけ見ても、この生徒にかける言葉が見つからなかった。
「あー、その…影山」
「はい」
ちらりと影山を見ると、物凄い眼力でこちらを見つめている。
「…本気で言ってるのか?」
「本気です。白鳥沢受けます」
「たしか同じ私立で青葉城西高校からのスポーツ推薦がきていたそうじゃないか、それは一体」
「白鳥沢受けます」
──何故。
「…影山」
「はい」
「白鳥沢は県内でも極めて偏差値の高い学校なんだ。ただでさえ高難易度なうえ、あそこは中高一貫校で門が狭い」
「はい、知ってます。さっき面談待ってる時、パンフレット読んだんで」
…おい、なんだそのドヤ顔は!まあいい影山、お前のその心臓の強さは認めてやろう…だが俺は学年主任兼国語教師兼進路指導担当。大切な生徒が道を踏み外しそうになったら、正しく導いてやるのが教師じゃないか。
「影山、ハッキリ言う」
「どうぞ」
「お前の今の学力では白鳥沢合格は難しい」
「…今の学力では、ですよね」
「そうだが?」
「今日からめっちゃ勉強します」
遅い遅い遅い
今日からじゃ遅い!
「影山違う!今日から勉強したくらいじゃ難しいんだあそこは」
「やってみなきゃわからないじゃないですか!」
威勢と姿勢がめっちゃいいなコイツ。
「いいか影山…例えば、うちの学年トップの鈴木がいるだろ、あの鈴木でさえ今の合格率85%ってとこだ。受験して確実に合格できるとは言いきれない」
「…鈴木さんって学年トップだったんすか?」
「そこ!?」
そこでようやく目の前の影山は、顎に手を当て少し悩む仕草を見せた。そうだ、いいぞ影山。学年トップでさえ確実に合格出来ないそれが白鳥沢なのだ。
「…尚更、負けてらんないスね」
は?
なにかの聞き間違いかと思ったが、影山の目にやる気の炎が見える。
「…えっ、ちょっと影山」
「先生、アザーっした」
「まてまてまて、こんなこと言っちゃいけないのは分かってるが無理だって影山!」
「先生、大丈夫ッス…俺努力の天才なんで」
キランと目を輝かせ、まるで某青春バスケ漫画の赤髪主人公を彷彿とさせるセリフを吐いて、影山は教室を出ていった。
「……止めたぞ俺は、何度もな」