第25章 あの日
影山 side
「影山、座って」
「?」
まだ解散しねえのか。
俺が美里のいた席に座ると、清水先輩は息を吐きながら俯いた。
そして次に顔を上げた時、その目には涙が浮かんでいた。
「え、ちょっ……は?」
「っ…ずっと、我慢してたんだけどね…なんか影山の顔見たら…」
「俺?」
「あー…ごめん…聞かなかったことにして」
苦しそうに無理矢理笑う清水先輩を見て、俺は意を決して口を開いた。
「…あの、あいつやっぱ、なんかあったスか」
「………」
「その…今日の女のこと、とか…なんかの約束?のこととか」
「……えっと」
「さっき体育館で聞こうとしたんスけど、あいつ泣いて…」
「影山、ごめん…私からはなにも話せない…」
「………」
まあそうだよな。あいつ自身が話さないことを、先輩が俺に話すわけがない。きっと美里は、この先輩がそういう人だと分かっているからこそ話したんだ。
…あの時のあいつの涙の理由はなんだ?
先輩が俺を見てそんな顔をするのはどうしてだ?
──それすらも分からずに、俺はどうやってあいつを助ければいい?
俺は頭を掻きながら目を逸らした。
「でも影山…」
「はい?」
「…今は何も聞かずに傍にいてあげて」
「……」
「美里ちゃんのこと…待っていてあげて」
清水先輩は、さっきまでの揺れた目が嘘のようにまっすぐ俺を見た。
「…………」
美里を待つ?
どういうことだ。
聞きたいことは山ほどあった。何も理解は出来ないし、どうすりゃいいのかもわからなかった。でも俺は、それら全てを飲み込んでただ黙って頷いた。
今の俺にそれ以外出来ることは何もない。
それだけは伝わったから。