第25章 あの日
清水 side
「ねえ、美里ちゃん」
『はい』
「人の心ってどこにあると思う?」
『え?そうですね…私は胸の、この辺かと』
「私もそう思う。だから、頭で考えた答えが、実際に心で感じてるものと一致するとは限らないんじゃないかな」
『わっ……たしかに』
「もし美里ちゃんの心があの約束を辛いと言ってるなら、頭では考えすぎずに、まずは心を解放してみるのはどう?」
『解放…?』
「今は知らず知らずのうちに心が約束に支配されて、自由を奪われてる状態なのかもしれない。だから、あの約束なんて忘れて、束縛から心を解放してみるの」
『………』
「やっぱりあの子のことが気になる?」
『…はい』
「大丈夫、もし美里ちゃんの言う通りなら、そもそも約束自体があってないようなものなんだし」
『そっか…なるほど、たしかにそうですよね。潔子先輩、私なんだか心が軽くなったような気がします』
「ならよかった…でも美里ちゃん、これだけは覚えておいて」
私は美里ちゃんの目をじっと見つめた。
「人を好きになるのは理屈じゃないの」
『……』
「だから美里ちゃんも、心のままに恋をしていいんだよ」
『…心の、まま』
「うん。人を好きになる気持ちなんて誰にも操れないし、操らせたらいけない。美里ちゃんが誰を好きになったとしても、それは絶対に間違いじゃないから」
『っはい…ありがとうございます』
私は、スマホで時計を確認した。
「そろそろ、かな」
『え?』
丁度その時、カランッ…と音を立ててカフェのドアが開いた。
目を向けると、そこには約束の時間ピッタリに現れた彼の姿があった。
『かっ…影山くん!?』
突然現れた影山に、美里ちゃんは驚きを隠せない様子だった。そんな彼女の名前を私が呼ぶと、真ん丸の目をそのままにこちらを向いた。
「…優しくて、理解してくれて、守ってくれて、美里ちゃんの作ったご飯を美味しいって食べてくれる…そんな人と素敵な恋愛ができるといいね」
『!……はい』
美里ちゃんは微笑みながら小さく頷いた。