第25章 あの日
清水 side
そして、美里ちゃんは突然悩むように首を傾げた。
『……んー…』
「美里ちゃん?」
『私…なんだか不思議で』
「不思議?」
『はい…今話してて、ふと…』
「うん?」
『当時は私も子供だったから本気にしちゃったけど、ひばりちゃんの話って所詮子供の言うことだったわけじゃないですか?…友達のお願いは聞かなくちゃいけないとか、一緒に住んでるのはいけないこととか』
「うん」
『それなのに、どうして私は今もあの約束にこんなに苦しくなるのかなって…』
「え?」
『だって、いくら影山くんと離れたくなくたって、今更両親が私たちのことを離れ離れにするなんてありえないですし…それに私、あんな約束なんかなくたって…』
何かを言いかけて、それを飲み込むようにカップに口をつけた美里ちゃん。
「………」
そんな彼女に、私はよっぽど教えてあげたかった。
それは、美里ちゃんが影山のことをとっくに幼なじみ以上に想っているからだよ。だからこそあの約束に心が痛むんだよ、と。
きっとこれは、美里ちゃん自身の力で気付かなくてはならないこと。そうじゃないと美里ちゃんはまた、そんなわけが無いと強く否定してしまうはずだから。
さっき彼女の飲み込んだ言葉の続き。
“絶対に影山くんを好きになんてならないのに”
…本当ならそんな言葉、一度たりとも言う必要なんてなかったはずなのにね。
「美里ちゃん、ごめんね?私、上手く言葉に出来ないけど…それだけ美里ちゃんが影山の存在を大切に思ってるってことなんだと思うよ」
『………』
「それに…ただ好きにならないのと、好きになっちゃダメだと自分に言い聞かせてそうするのとでは、たとえ結果が同じだとしても意味は全く違うから」
美里ちゃんは、私の言葉の意味を一生懸命頭の中で考えているようだった。