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【HQ】初恋に溺れて息ができない【影山飛雄】

第25章 あの日


飛雄が部屋を出て行った後、ひばりちゃんは感情の読めない目で私をじっと見つめていた。その無表情が逆に不気味で、私はどう言葉を紡げばよいのかわからず、息を呑んだ。

「どうして一緒に住んでることを隠してたの?」広い部屋に冷たく響いた彼女の声には微かに怒りが滲んでいた。私は心がざわつくのを感じながら、隠していたつもりはない、ただ話す機会がなかったと答えた。その声は思ったよりも震えて、最後はか細く消えてしまった。

ひばりちゃんはその答えに納得せず「なにそれ」と吐き捨てた。そして、訝しげな表情をして「飛雄くんのこと、好きなの?」と続けた。突然そんなことを聞かれて、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。恋愛感情なんて自覚したこともなかった私は「ううん」とすぐに答えたが、彼女の視線はさらに私を追い詰めるように圧を増した。

「それならこれから先も、飛雄くんのことは好きにならないで」

ひばりちゃんの突然の要求に、私は戸惑いを隠せなかった。黙れば機嫌を悪くさせてしまう、そんなことは分かっているのに何故か私は頷くことが出来なかった。とにかく沈黙が怖くて、どうしてそんなことを言うのと尋ねると「飛雄くんはわたしの特別な人だから、美里ちゃんに取られたくない」と答えた。


──“特別な人”
その言葉が私の心に重くのしかかる。


私にとって飛雄は、隣にいるのが当たり前の存在だった。でも、それでいて特別だとも感じていた。だって飛雄以外にも仲良しの男の子はいたけれど、飛雄とその子を同列だと思ったことは一度もなかったから。私が隣にいたいと思うのは、いつも飛雄だけだったから。

飛雄は私だけの特別だと思っていた。ただ漠然と、ずっとそうなのだと思っていた。…だけど、飛雄を特別だと感じていたのは私だけではなかった。初めてその事実を知ったとき、私は心の柔らかい部分が抉られるのを感じた。

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