第25章 あの日
ひばりちゃんは、突然目の前に現れた飛雄にひどく動揺していた。ノートに覆いかぶさりながら真っ赤な顔で、どうして?なんで飛雄くんが?と繰り返す。そんな彼女を前に、飛雄はさも当然のように「おれの家だから」と答えた。そして机の横に荷物を置いた飛雄は、静かに混乱する私を見た。練習はどうしたの?そんな私の視線を感じ取ったのか「今日体育館の修理でバレー休みになった」と残念そうに呟いた。
ひばりちゃんは床に突っ伏したまま「どうして2人の家が同じなの?」と震える声で言った。私がどう答えるべきかを考えていると、飛雄は「一緒に住んでるから」と簡潔に答えた。その飛雄の言葉を聞いたひばりちゃんは、開いていたノートのページをくしゃりと握った。
そして間もなく顔を上げたひばりちゃんは、まっすぐに私を見つめていた。感情のわからない目。それから逸らせずにいると、彼女は「美里ちゃんと2人で話したいから、飛雄くんは出ていって」と口にした。
飛雄の視線が私に向いている。
それにはもちろん気付いていた。
でも、私はそちらを向けなかった。