第25章 あの日
その日飛雄はバレーの練習の日で、私は19時頃に一与さんと体育館へ迎えに行くことになっていた。教室を飛び出して行った飛雄を見る限り、私たちが家に着く頃にはもう家にはいないだろう。私はひばりちゃんを連れて家に向かった。
家に着くと、鈴木家の方には誰もいなかった。両親は仕事で、高校生の兄は部活。いつもなら影山家から入って一与さんにただいまと言うのだけれど、今日はそれもできない。そのことに少しだけ罪悪感を覚えた。
私は階段を上って部屋に案内し、机にランドセルを置いた。ひばりちゃんは両手を広げながら「ひろ〜い!」と言ってクルクル回っていた。そして、並んだベッドや対照に置かれる机を見て不思議そうに首を傾げた。聞かれるより先にお兄ちゃんのだよと伝えると、納得したように頷いた。
するとひばりちゃんは、ストンと床に座った。少し頬が赤い。そんな染まる頬を手のひらでおさえながら「もうすぐ飛雄くんの誕生日とクリスマスがくるから、相談に乗ってほしいの」と呟いた。学校や外だと誰かに聞かれるかもしれないでしょ、そう言って恥ずかしそうに俯く彼女の表情は攻撃的な一面からは全く想像することの出来ないくらいに、か弱く可憐な女の子そのものに見えた。
それから少しの間、私たちは飛雄の好きなものや喜びそうなものについて話した。多分好きなものはいっぱいあるのだろうけど、きっと飛雄にはバレー以上に心を動かすものはない。結局そんな話に落ち着いて、ひばりちゃんは取り出したノートに “バレー” とメモした。
その次の瞬間、部屋のドアが突然開いた。
そのドアを開けたのは、飛雄だった。