第25章 あの日
あんなことがあったにもかかわらず、ひばりちゃんはまたいつも通り私の傍にいた。だけど、飛雄と話す私を見る目は相変わらず鋭くて、私は心のどこかでいつも恐怖を感じていた。それをひばりちゃんや飛雄に悟られないよう、必死で笑顔を作り隠す日々だった。
その年の12月、放課後にひばりちゃんが突然私の家に行きたいと言い出した。断って機嫌を損ねるよりはいい、子供ながらにそんなことを考えて首を縦に振った。
しかし、昇降口で下駄箱から靴を取り出す時に目に入った《影山飛雄》という名前シールを見て私はハッとした。
私と飛雄が一緒に住んでいることをひばりちゃんは知らないではないか、と。
そのことを私から彼女に話した記憶はないし、転校してきてから私たち以外の人とほぼ接点を持っていない彼女に、わざわざそんな話をする友人は一人もいなかった。
…この事実に気が付いた時点で、断るべきだったのだ。この後に起こる出来事に比べれば、不機嫌にさせるくらい何でもなかったのだから。
でも、幼い私はそれに気が付くことができなかった。
この後の私は、このことを何度も何度も後悔することになる。