第25章 あの日
ある日、3人で歩いていた帰り道。
急に立ち止まったひばりちゃんは、飛雄を先に帰らせた。ランドセルの肩ベルトを握り締めながら心配そうに私を見つめる飛雄に、大丈夫と伝えたくて笑顔で手を振った。
飛雄の背中が見えなくなった頃、ひばりちゃんはポツリと呟いた。
──「わたし、飛雄くんのことが好き」
その言葉を聞いて、ほんの一瞬、いやだなと思った。何故そう感じたのかは自分でもよくわからなかった。私はひばりちゃんの気持ちを否定するわけにはいかないと思って、なんとか『そうなんだ』という言葉を絞り出した。
その日を境に、ひばりちゃんの態度が変わり始めた。
一与さんと一緒に体育館に行く日。急かす飛雄に手を引かれて、駆け足で教室を出た私。廊下でトイレから出てきたひばりちゃんとすれ違った。とりわけ約束をしていたわけではない。私はまた明日、と声を張り上げて飛雄と階段を駆け下りた。
次の日、トイレの個室から出てハンカチで手を拭いていると、目の前の鏡に私を睨みつけるひばりちゃんが映った。彼女の顔には明らかな怒りの色が浮かんでいた。
「昨日、なんで飛雄くんと2人で帰ったの?」
ひばりちゃんが詰め寄ってきた。どうして彼女が怒っているのか分からなかった私は特に理由はないと答えると、その表情がさらに険しくなった。
「嘘つき!わたしが飛雄くんのことを好きだって知ってるくせにひどい!わたしから飛雄くんをとらないでよ!」
ひばりちゃんの叫ぶような声がキンッと響いて、私は驚きと恐怖でトイレを飛び出した。
教室に戻ると、飛雄と目が合った。スッと立ち上がり私の元にやってきた飛雄は「美里大丈夫?」と声を掛けてくれた。他の友達も私の様子がおかしいことに気づいたようで、囲むように集まってきた。
そんな中、別のドアからひとり教室に戻ってきたひばりちゃん。みんなの肩越しにその姿を見ると、その目は先程よりも鋭く私を睨みつけていた。