第25章 あの日
小学2年生のとき、ひばりちゃんが隣のクラスに転校してきた。そのとき私と飛雄は同じクラスで、家でも学校でもいつも一緒にいた。
誰が知り得た情報かはわからないけれど、ひばりちゃんは前の学校でひどいいじめに遭っていたそうで、それもあってか秋山小でもあまりクラスに馴染めていない様子だった。
いつも一人ぼっちのひばりちゃんが気になって、私は勇気を出して声を掛けた。最初は目すら合わないし「うん」と「ううん」しか答えてくれなかったけれど、少しづつ心を開いてくれるようになった。私はひばりちゃんの見せてくれる笑顔が嬉しかった。
ある日の休み時間、廊下でひばりちゃんと話していると教室から飛雄に話し掛けられた。たしか、今日は一与さんと体育館に行くから美里も行こうとかそんな内容だったと思う。一言二言話して去っていった飛雄の背を見ながら、ひばりちゃんは「あの男の子だれ?」と興味津々な様子だったのを覚えている。
小学3年生になって、私たちとひばりちゃんは同じクラスになった。依然としてひばりちゃんは他の子たちとはなかなか打ち解けられないようで、私にべったりとくっついている印象だった。私はなんとなく、他の友達が私に話しかけにくそうにしているのを肌で感じていた。だけど飛雄だけは、そんな空気なんのそのというように変わらず傍にいてくれた。飛雄が近くにいる、ただそれだけで私は変わらぬ日常を送っていると、そう思っていた。
…だから気が付けなかったのだ。
ひばりちゃんの心の変化に。
飛雄を見るその目に、恋心が芽生えたことに。