第25章 あの日
潔子先輩に連れられて近くの駅まで歩きカフェに入る。私たちは窓際の静かな席に座った。カフェの穏やかな雰囲気が、私の緊張した心を少しだけ和らげてくれる気がした。潔子先輩はミルクティーを、私はアップルティーを注文する。やがてドリンクが運ばれてくると、私たちはカップに口をつけた。
ふぅ、と一息ついた頃、潔子先輩が優しい声で沈黙を破った。
「美里ちゃん、落ち着いた?」
『…はい、だいぶ』
俯きながら、私はカップの縁を指でなぞった。
『潔子先輩、ゴールデンウィークの合宿で少しだけ話した私の友達の話を覚えてますか?』
「…うん、影山を好きにならないって約束した友達のことだよね?」
あえて約束の内容を口にした潔子先輩に、もうきっと先輩は分かっているんだろうなと思った。
私は小さく頷く。
『実は今日会った人が…その子なんです』
「そう、だったんだね」
『それで……えっと、その』
言葉の続きがなかなか出てこない私。震える指がカップとソーサーをカタカタと鳴らす。
潔子先輩はそんな私の手をそっと包んだ。
「美里ちゃん大丈夫、ゆっくりでいいよ」
『…すみません、まとまらなくて』
「まとまってなんかなくていい、美里ちゃんの思うように話してくれたらそれでいいから」
潔子先輩の優しさが心にじわっと染みる。
『私、今日あの子に会ってからずっと、胸のこの辺が痛くて…』
「うん」
『子供の頃にした約束に、今もこんなにも苦しめられていたなんて初めて気が付きました』
「美里ちゃん…もし話せたらでいいんだけど、あの子との間に何があったのか…聞いてもいいかな?」
私は深呼吸をして、心の奥底に閉じ込めていた記憶の蓋をそっと開けた。