第24章 春高一次予選開始!
「ッ……便所行ってきます」
「え?あ、うん」
『………』
帰ってきたみんなと入れ違うように去って行った飛雄。その背中を見つめながら、飛雄の触れた頬を撫でる。
ボールや笛の音が響き渡る中、まるで自分だけが別世界にいるように感じられた。心臓の音が耳に直接響き、息が詰まりそうだった。
まさか、彼女が再び目の前に現れるなんて…。
飛雄を呼ぶ声を聞いた瞬間、幼い頃の苦い思い出が一気に蘇った。彼女の言葉が頭の中でリフレインし、心の奥底に押し殺していた感情が波のように押し寄せる。
思い出したくなかった、忘れていたかった。
…いや、忘れたフリをしていたかった。
いつか本当に忘れられる、その日まで。
痛い、胸が痛い。
彼女との再会が、自分の心にこれほどの影響を与えるとは思っていなかった。あの約束が、こんなにも自分の心を苦しめていただなんて知りもしなかった。
──「あいつの言う “約束” ってなんだ?」
『……うっ』
突然胸の苦しさを感じてその場にしゃがみこむと、ツッキーが背中を支えてくれた。
「ちょっと、大丈夫!?」
『ん…大丈夫、ありがとうツッキー』
「ほら、ここ座って」
ツッキーは私の体を支えながら、端の段差に座らせてくれた。
『ごめんね…』
「謝らなくていいよ、カゴとかは僕らでやるからキミはここにいて」
『そういうわけには…!』
「いいから……あそうだ、これあげる」
何かを差し出されて受け取ると、それはイチゴの絵が描かれた飴だった。
『あ、ありがとう』
「どういたしまして」
『懐かしい…これ中シャリシャリするやつだよね』
「鈴木は飴噛む人?」
『中が美味しいから、これは噛んじゃうかも』
「わかる。鈴木もこれ好きだった?」
『うん、大好きだよ』
私がそう答えると、ピクッと肩を震わせたツッキーは目をまん丸にして私を見た。
「……っ、」
『ん?』
「なんでもない…じゃあ、それ食べて休んでて」
『あ…うん?ツッキーほんとにありがと』
「もういいってば」
胸の痛みが心のポカポカに紛れるのがわかった。
私は可愛く包まれた飴玉を手のひらに乗せた。今食べてしまうのはなんだかもったいなく感じられて、私はその飴を大事にポケットにしまった。