第24章 春高一次予選開始!
影山 side
「大丈夫か?」
『あ…うん、ありがとう』
振り返ると、美里は視線を逸らして下を向き、指先を軽く合わせながらそわそわとした仕草を見せた。
「…なあ、お前さっき」
『ひばりちゃんと……話してきた?』
俺の声に言葉を被せた美里は、何かを誤魔化すように笑顔を浮かべた。
「話してねえ」
『ど、どうして!?』
「どうしてもなにも、お前が心配だったから」
『そんなっ…どうしよう…』
「おい」
俺の横を抜けて行こうとする美里の腕を掴むと、美里は慌てて周りをキョロキョロと見た。
『っだ、だめ…影山くん離して』
「離さねえ」
『なんで…!』
「お前、あの日何があった?」
『!』
「あいつに何を言われた?」
『………』
「あいつの言う “約束” ってなんだ?」
約束
そのワードを出した瞬間、俺を見た美里の目からポロリと涙がひと粒零れた。その涙があまりにも綺麗で、俺は一瞬固まってしまった。
「……美里、」
『なっ…だ、だめ!名前で呼んじゃだめだよ影山くん…ひばりちゃんと話さずにきたなんてだめだし、それに、さっきも彼氏じゃないって言わなきゃだめだったのに…!』
あれもダメこれもダメ、と混乱したように全てを否定する美里。
余計なことばかりを紡ぐこの唇を今すぐ塞いでしまいたい。
──言葉ごと、ぜんぶ飲み込んでしまいたい。
「…っ!?」
ハッとして自分の口に手の甲を当てる。
俺は今、何を考えた…?
試合中よりもバクバクと動く心臓。とにかく思考を散らすために頭をガシガシと掻くと、言葉にならない唸り声が漏れた。
誰か、このバカみたいに湧き上がる衝動の殺し方を教えてくれ。
『か…影山くん?』
「あー…クソ、頭おかしくなる」
『どうしたの?だいじょ…』
「チッ」
こんな時に限ってまっすぐに見つめてくるコイツの目。
俺は舌打ちをしながら、その頬に残る涙を親指でグイッと拭った。
「あ、影山!…と鈴木もいるな」
「よかった、鈴木ちっこいから影山に隠れて見えなかった」
声に振り返ると先輩たちが戻ってきたところだった。